◆別々の道を選択したから、歌姫が誕生した
この話を前川に振ると…、
「えっ? ボク、歌ってましたっけ。覚えてないなぁ。まあ、もしも、今の年でお互いに独り身であったなら、もっとわかり合えたかもしれませんね。でも、そういう運命の流れがあったからこそ、宇多田ヒカルさん(36才)という歌手がこの世に誕生したわけですよ」
1998年、宇多田ヒカルのファーストアルバム『First Love』は900万枚突破という日本新記録を打ち立てた。そんなわが娘の類まれな才能を全力で後押ししてきたのが母である藤だった。
「宇多田さんがデビューする前、1度だけ藤さんから電話がかかってきたことがあるんです。“娘は天才なのよ”って。それから間もなくして凄い歌声の若い娘がいるなと思っていたら、それが藤さんのお嬢さんだった。独特な声質がソックリで驚きました。歌っている時というよりも、しゃべっている声が。CMで宇多田さんの声が流れた時、思わず振り返ってしまいますもんね」
昨年5月、芸能生活50周年を記念したシングル『初恋 Love in fall』を発表した前川。偶然にも宇多田が同月にリリースした新曲のタイトルも『初恋』だったことには心底驚いたらしい。
「こっちは“得した! 誰か間違えて買ってくれないかな?”(笑い)なんて冗談を言ってましたけど、向こうは迷惑しているかも…。でも、これも何かの縁かもしれませんね」
巡り合わせといえば、8月は前川にとってさまざまな思い入れの重なる月なのかもしれない。
「藤さんと結婚したのも、離婚をしたのも8月。そして、藤さんが亡くなったのも8月。奇しくも、ボクが生まれたのも8月。今月、19日に71才になりました。たまたまなのかもしれませんが、どこか不思議なものを感じなくもありません。今年もボクをはじめ、多くのファンの皆さんに藤さんを偲んでもらいたいですね」
■取材・文/加藤みのり
※女性セブン2019年9月5日号