「いい加減働けだの、長男だから母親の面倒はお前がみろって無茶苦茶だ」

 串田さんの弟は地方に転勤しているサラリーマンで、妻も子もいる。転勤族だから母親を引き取るのは難しい、何もしていない同居の串田さんが面倒をみろ、ついでに働け、ということか。無茶苦茶ではないと思うが、串田さんにしてみればたまったものじゃないのだろう。

“生・老・病・死”のリアルの前に、串田さんのような人は無力だ。自立しないにせよ、母親の面倒やそのための自活が串田さんには待ち受けている。いずれ介護ものしかかってくるかもしれない。厳しい現実を承知しておくべきだろうと思い、「嫁を貰って介護させる」とかトンチンカンなことを言わないうちに、高齢の母親と暮らす独身無職では難しいと釘を刺した。

「そんなことわかってる」

 串田さんはふてくされた。さすがにそのくらいはわかっているか。

「でも妄想は自由だからね、ウブなレイヤーにあれこれするのは妄想なら自由」

 被写体が想像したのとは異なるアングルの写真を撮り、それを売っていることは妄想では済まない立派な迷惑行為だろう。しかし、それは犯罪とまでは言えないことなので、実際に手をくださないだけマシと考えるしか無いか。串田さんは昔のコミケの思い出や、コスプレを前提としたアニメやゲームのキャラクターのどんな衣装がエロいかなどの話をまくしたてる。新しいカメラは父親の生命保険の一部で買ったという。その額からしたらたいした金額ではないが、さすがに閉口した。

 ところが、串田さんはその父親のことはかたくなに話そうとしなかった。父親は大嫌いだったという串田さん。それでもこの歳までずっと一緒に住んでいた。健康保険も年金も光熱費も払ったことがない串田さんの生活の面倒をみてきたのはその父親に違いない。親の心子知らず、なんだかんだ長男坊がかわいかったのだろう。

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