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脳死判定が遮った臓器提供の望み、「妻生きた証を」夫の訴え

悠子さん(右)は、新婚旅行では食事を制限していたが、膵臓移植後は血糖を気にすることなく、生まれて初めて食べたいものを存分に食べられるようになった

 2019年に臓器移植を希望した人のうち、実際に移植を受けられたのは、わずか3%。そんな中、臓器移植により得た命を、今度はドナーとしてつなぎたいと願いながら、叶えられないまま亡くなった女性がいた。彼女の死は、世界に大きく後れをとる日本が抱える臓器移植の問題を浮き彫りにしていた。医療ジャーナリスト・伊藤隼也氏と『女性セブン』取材班がその実情をリポートする。

 * * *
 愛する妻が、いままさに死を迎えようとする病室に、夫の怒声が響き渡った。

「先生、あいつは志半ばで死ぬんです。その思いをつなげなくて、この先どうして移植医療が進むんですか!」

 妻の臓器をどうにかして誰かに移植していかしてほしい──愛知県半田市在住の榊原正秋さん(46才)は、こう訴えた。正秋さんの妻・悠子さん(享年36)は、若くして失明のハンデを負い、2度の臓器提供を受けた。体調悪化で死期が迫ったとき、夫婦は悠子さんの肝臓をレシピエント(臓器移植希望者)に譲って命をつなごうとしたが、マニュアルにはばまれ、叶わなかった。少ない家具が整然と置かれる自宅で、悠子さんの遺影を前にした正秋さんが語る。

「悠子は障害を抱えていてもこちらが驚くほど前向きで、いつも困っている人の役に立ちたいと願う女性でした。人から大切な臓器をもらったのだから、命のバトンをつないでいくべきなのに、ぼくは彼女が亡くなるときに何もできなかったことが悔しくてしかたがなかった。だからこそ、現在の移植医療を変えたいのです」(正秋さん・以下同)

 今度は自分が誰かの役に立ちたいと望みながら、志半ばでこの世を去った悠子さん。最愛の伴侶を失った正秋さんが語る、日本の移植医療の高くて厚い壁とは──。

 当時、福岡県北九州市で会社員をしていた正秋さんが、友人の紹介で悠子さんと初めて出会ったのは2002年。

 3才から患う1型糖尿病により視力を失うという不運に見舞われながらも、終始前向きな姿に、正秋さんは驚きを禁じ得なかった。

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