「それだけ夫に怒っていたということですよね。なあなあにして許してしまうと、また元の状態に戻るしかないから、どうしても譲れないところだった。本当の感情を絵里子自身がつかむまで結構かかりますけれど、ロールプレイングゲームではないですが、人生は何度でも選び直していいと思っているんですよね」
◆結婚を維持する「才能」がある
後半では、絵里子の目には好き勝手に生きてきたように映っていた母親にも、本当は彼女なりの苦悩があったことがわかってくる。また、萌からは、自分という女性がどんなふうに見えていたのかも。
「母娘の葛藤って、自分も子どもを持つ年齢になるとどんどん色彩が変わってきますよね。親になって初めてわかることもあるし、保護被保護の関係も恒久的ではない。常に一方の言い分が正しいって、ないですよね。萌も、絵里子や芙美子、周囲の女性たちからどんな影響を受けて、どんな母親になっていくんでしょう」
結婚というものが、そもそも悲劇的なのだとは思わないが、しただけでなめらかに人生がバラ色に染まるわけはない。違う人格同士がひとつの家にいれば、わちゃわちゃと衝突があるのは当たり前だとは思ってほしい、と窪氏。
「運動神経のある人ない人、歌のうまい人ヘタな人がいるように、結婚も才能だと言った友人の占い師がいました。結婚を維持していく才能がある人とない人がいる。その真偽はわからないですが、ハッとしたんですね。そこから『結婚がうまくいく』とは何かと考えました。波風が立たなければうまくいっていると言えるのか、立った波風が収まることがそうなのか、波風を見過ごすことなのか。いくら考えても答えが出ないことが触媒になって、この小説の中に集約してみたふしはありますね」