しばらく乗車勤務もないということで思う存分呑んでいるそうだ。もちろんその間の金は入らない。保証対象になるかもわからない。彼は50代で団塊ジュニアではないが、世代関係なく労働の最前線ではある者は疲弊し、またある者は失業の危機に晒されている。
「部屋に一人でいると気が変になっちゃうよ、怒られるかもしれないけど、こういうところがあるのはありがたいね」
そのタクシー運転手の言葉にハッとなった。一人暮らしでアパートにいる単身者はどんな思いでいるのだろう。友達とネットでやり取りしたり会社との連絡などがあれば気も紛れるだろうが、さまざまな理由でたどり着くような、人間関係が希薄な仕事もある。家族関係も人それぞれだ。それが「せいせいした」と気楽な人もいるだろうが、誰もが孤独に、ましてやいつ終わりとも知れないコロナの恐怖に耐えられるわけでもない。よっちゃんが続く。
「そりゃ俺だって本音じゃ店休みたいよ。でも休んだら終わっちゃうし、こんな時だからこそ、こうやって来てくれる人がいたら嬉しいもんさ」
さすがに自粛要請の夜8時には閉店するというが、それもよっちゃんにすればお客次第、厳密には守っていないという。
「役所じゃあるまいしいきなり時間ですピシャってわけにもいかないし、結局は結構遅くまでやってるね。そもそも7時に酒をやめろって、やめられないよね、呑んだくればかりだもん」
店内が笑いに包まれる。
「ま、警察も見回りに来るけどポーズだけ、早く帰りなさい程度で優しいもんさ。この辺はそんなもん」