買収の舞台となった昨年の参院選で安倍事務所は案里陣営に4人の秘書を派遣し、案里氏の後援会長だった町議も、克行氏から「安倍さんからです」とカネを渡されたと証言している。それだけに特捜部は巨額の党資金の決裁に安倍サイドがどう関わっていたかを注目しているとされる。
かつて田中角栄内閣の跡を継いだ三木武夫首相は、ロッキード事件が発覚すると政敵の田中前首相を守らずに検察捜査にゴーサインを出した。
「今回の選挙買収事件が自民党中枢に波及し、11月危機と重なって次が石破首相になると、“第2の三木”となって捜査を安倍勢力の弱体化に利用しかねない。そうした懸念があるだけに、石破後継を阻止して安倍総理の意向に従う後継者を選ばなければならない」
首相周辺にはそうした警戒の声がある。麻生太郎・副総理の「9月解散、10月選挙」論も石破後継阻止という首相サイドの思惑と一致する。永田町には、解散論の裏に安倍―麻生への「政権禅譲」シナリオがあると囁かれている。
「11月危機で退陣に追い込まれる前に、安倍首相が麻生氏に首相の座を禅譲し、麻生内閣が五輪中止など安倍政権の残務整理をする。9月解散で自民党が議席を減らせば総理交代の口実になるし、一度選挙をやれば自民党議員は当面選挙の心配がなくなるから、来年の総裁選では人気のない岸田氏を総裁に担ぎやすい」(自民党関係者)
麻生リリーフ首相の後に、岸田“傀儡”政権をつくるシナリオだ。
そして、自民党の外からは、東京都知事選で圧勝し、“いつ国政に復帰すべきか”とひそかに野心を燃やす小池百合子氏が、自民党の人材不足を象徴する総理選びの迷走を、舌なめずりしながら見つめている。
※週刊ポスト2020年7月24日号