柴門:本当に。でも、そうは言っても、ご不満があったとしても、いまから別の男性と暮らし始めることは林さんも考えられないでしょう?
林:それはあり得ないな。それに娘からは、ママは「孤独死させない協会」から派遣されたボランティアなんだから、パパのことが嫌でも我慢しなきゃと言われているんです。
柴門:ことばのセンスが秀逸(笑い)。
林:娘いわく、うちのパパみたいな人をもしママが見捨てたら、ひとりぼっちで孤独死しちゃうから我慢してって(笑い)。私は自分が文筆業で自由人だからサラリーマンの人がいいかと思って、堅い理系の人を選んだらやっぱり合わない(苦笑)。でももう、いまさらそれを言ってもね。
柴門:なんだかんだいっても、夫婦が重ねた年月というのはほかの人とは替えがきかない年月なので、この年で手放すメリットはないような気がしますね。思うに夫婦は特殊な関係で夫なら気にならないのに、同じことをほかの男性がしたら生理的に受け付けないこともあったりして。
林:肉体関係があるかないかは大きいと思う。かつてあったから(笑い)、夫なら許せるんじゃないのかな。
柴門:長く夫婦をやっていると愛着というか、自分の体の一部になっているような部分もある気がする。林さんもご主人との折り合いの付け方がわかっているから、一緒に暮らすストレスは少ないんじゃない?
林:いやいや、ストレスは多いよ(笑い)。定年退職しても図書館へ行ったり、友達と会ったりして夫も出歩いていたんだけど、コロナで家にいるようになってから、私が外出するのが本当に不愉快らしいの。ずっと家にいるから、家のことや私の仕事のことに口を挟むようになって。
柴門:家を管理するのは、何か自分も仕事を持ちたいんだと思うけど。
林:そうなの、あそこが無駄だから改善しろとか、電化製品に詳しいから、なんであれを替えないんだとかもう、ああだこうだ……。まぁもうぜ~んぶ、右から左へ聞き流しますけどね。それが最善の対処法。前は私も腹が立って、“そんな言い方ないじゃない”と言い返したけど、夫は昔のおじさんだから、女が口答えをすることにびっくりしてまたカーッと頭に血が上ってしまうから。