私自身、1982年の渡独当時は日本とドイツという国に囚われていましたが1989年にベルリンの壁が崩壊。EUへと動く中、21世紀は町や村の時代だと確信するに至った。日本も韓国や中国や台湾や、北朝鮮とだって連携するに越したことはなく、お隣同士が線を引き、喧嘩することほど、危険でつまらないことはないんです」
だから多和田氏はあえて住み慣れたベルリンを歩き、過去と現在と未来の地層に思いを巡らせた。今は亡き革命家とわたしの境界線はいつしか消え、時を超えた連携も散歩は可能にしたが、それも孤独であればこそ。個が個を求め、点が点を求める時、その彼方には豊潤な言葉の地平が広がるという、本書は証左でもあるのだ。
【プロフィール】たわだ・ようこ:1960年東京生まれ。早稲田大学文学部卒。ハンブルク大学大学院修士課程、チューリッヒ大学大学院博士課程修了。1991年『かかとを失くして』で群像新人文学賞、1993年『犬婿入り』で芥川賞、2000年『ヒナギクのお茶の場合』で泉鏡花文学賞、2003年『容疑者の夜行列車』で伊藤整文学賞と谷崎潤一郎賞、2011年『雪の練習生』で野間文芸賞、2013年『雲をつかむ話』で読売文学賞と芸術選奨文部科学大臣賞等の他、ドイツでの受賞も多数。158cm。
■構成/橋本紀子 ■撮影/三島正
※週刊ポスト2017年5月19日号