ドラマでサレ妻の主人公が増えたもう1つの理由は、演技派女優が輝くから。
「罪悪感を覚えながらも不倫に溺れる」スル妻より、「夫の不倫に怒り、悩み苦しむ」サレ妻のほうが感情は複雑であり、演技の難易度は上。演技派女優にとっては、腕の見せどころと言える役柄なのです。
たとえば、『ホリデイラブ』でスル妻の井筒里奈(松本まりか)は、「夫・井筒渡(中村倫也)への不満を抱えているため、杏寿の夫・純平を運命の相手と信じ込んでしまう」と感情が一直線。一方、サレ妻の杏寿は、「良き夫と子どもに恵まれ幸せの絶頂から、夫の不倫を知って怒り、離婚を考えたり、思い留まろうとしたり、やはり許せなかったり」と感情が激しく揺さぶられ続けています。
その点、仲里依紗さんは『あなたのことはそれほど』でサレ妻を好演。泣きわめくのではなく、静かに発せられる怖さを見せて絶賛を集めました。そんな演技ができるからスタッフは『ホリデイラブ』の主演に仲さんを選びたくなるし、視聴者も安心して見られるのです。
仲さんは同じ俳優の中尾明慶さんと結婚して一児に恵まれるなど、プライベートはドラマ冒頭の杏寿と同じ幸せな家庭。だからこそ、視聴者が「仲さんのような幸せな妻でも一歩間違えたら、杏寿のようになってしまうかも……」と想像できるのが『ホリデイラブ』の醍醐味とも言えるのです。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。