また彼女はパキスタンで元夫らから顔に硫酸をかけられた女性とも生活を共にし取材。だが一部の施設からは傷跡が酷すぎると写真展を断られる一方、興味本位で取り上げるメディアも多く、〈写真は「美しいもの」だけを撮るべきか〉と本書で改めて問うている。
〈私は苦しみ悩んでいる彼女たちと一緒に生活していく中で、「被害者」としての彼女たちだけではなく、それを越えた彼女たちの存在や強さを伝えたい〉〈ただ「醜い」とか「グロテスクだ」とだけ思われたのであれば、それは残念というしかない〉
「写真の編み方も含めてどんなに慎重に表現しても、インパクト重視で一部だけを紹介されてしまったり、紛争地へ行って、こんなにスゴイ写真を撮りましたと、自分探しに終始する撮影者が多いのも事実です。
東日本大震災でも遺体の撮影を巡って議論があったように、真実とは何か、何を美とするか、私たちは理解を一層深めるべき局面にいる。ところが何をもってフォトジャーナリズムとするかという議論から日本は置いてきぼりを食い、私も海外のエージェントに籍を置くことで何とか活動できているのが現状なんです」
それでもフリーに拘るのは、被写体と過ごす時間や何より個人が個人に訴える立場を大事にしたいからだ。写真表現の限界を知りつつ、なおかつ絶望もひねくれもしない彼女は、ガンビアでの約束に誠実であり続ける、真っすぐで強い人でもあった。
【プロフィール】はやし・のりこ/1983年川崎市生まれ。米国の大学で国際政治学や紛争・平和構築学を学んでいた2006年、ガンビア共和国を研修で訪れ、現地の新聞社The Pointで写真を撮り始める。帰国後もキルギス、イラク等で取材を展開し、ワシントンポスト、ニューズウィーク他、国内外の媒体に寄稿。DAYS国際フォトジャーナリズム大賞、フランス世界報道写真祭報道写真特集部門金賞、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞等受賞多数。現在英Panos Pictures所属。
■構成/橋本紀子 ■撮影/三島正
※週刊ポスト2018年6月1日号