首相は昨年5月に読売新聞紙上で独自の9条改憲私案を発表したものの、その後は積極的に改憲手続きを進めようとはせず、今年の通常国会では衆院憲法調査会も参院の憲法審査会も開店休業状態でほとんど何の審議もしていない。野党はもちろん与党内にさえ、「安倍さんの改憲は口だけで本気じゃない」との見方が広がっていたからだ。
それをいきなり、「次の国会に改憲案を出す」と言い出したのだから、“何が起きたのか”と裏を読むのが政界の常だ。自民党ベテラン議員はこう語る。
「総裁選では無敵の安倍さんも、さすがにあの組織の意向は無視できなかったようだ。これ以上、改憲を先送りするわけにはいかないと尻に火が付いた」
総裁選での勝利が確実な安倍首相を慌てさせた組織とは、「神社本庁」だ。伊勢神宮を本宗として全国約8万社ある神社のほとんどを傘下に収める包括宗教法人で、現総長の田中恆清氏は安倍政権を支援する保守系団体・日本会議の副会長も務めている。
政治的影響力の面でも他の宗教団体とは一線を画す存在といっていい。宗教学者の島田裕巳氏の話だ。
「その前身は戦前の内務省神祇院で国家神道を統括する政府機関でした。戦後、GHQに一掃されるところを民間の宗教組織となって生き残り、神社本庁が誕生した。表立って教義信条には掲げていないが、目的は皇室の祖神を祀る伊勢神宮を本宗として神を崇め、皇室を崇める教えを広めること。
そのために宗教法人にとどまらず、新憲法制定や靖国神社での国家儀礼の確立、皇室の尊厳護持などの政治運動の主体としても活動している。これまでに紀元節(建国記念日)復活運動、元号法制定、国歌国旗法、昭和の日制定などの成果をあげてきました」