日本ではまだあまり理解されないのですが、世界はいまリベラル化の大きな潮流のなかにあって、ガチガチのカトリックの国であるアイルランドですら国民投票で中絶が合法化されました。北欧では首相がゲイやレズビアンなのはもう珍しくないし、世界的に同性愛者など性的マイノリティに対する許容度が広がっている。「べつに私が迷惑するわけじゃないんだから、みんな好きに生きればいいでしょ」という価値観に、伝統や道徳で対抗するのはますます難しくなっている。日本もこうしたリベラル化の潮流を半周遅れて追っているので、保守の野田さんにとっても、LGBTの側について批判されるリスクより、「保守だけどリベラル」として安倍政権と差別化した方が有利だと考えたんじゃないでしょうか。実際、保守派の政治家が同性婚や夫婦別姓を口にしても、ネットで大炎上するなんてことにはならないですよね。それに対して、「韓国の徴用工判決にも一理ある」なんて言ったらどうなるか?
中川:とんでもないことになりますよね。思い返せば、元東京都知事の舛添要一氏が、新宿区に韓国人学校を作ろうと言ったときにも「待機児童の問題があるのに、そんなもん作っている場合か!」という反発がすごかったですから。
橘:それは「韓国」「中国」が日本人という脆弱なアイデンティティを逆なでするからです。これは「右傾化」と呼ばれていますが、その実態は「(日本人だという以外に誇るもののない)日本人アイデンティティ主義」で、従来の保守・伝統主義とは別なんじゃないかと考えています。
◆有権者の多くが世界を善悪二元論でしか理解できない
中川:ネットで安倍首相の支持層の発言を見ると、嫌韓・反中は多いのですが、一方でアメリカに関する発言を見ると、オバマ大統領の時は嫌いだったけど、トランプ大統領が誕生したら好きになっているという印象もあります。
逆に、安倍支持層はヒラリー・クリントン氏のことは嫌いだと思います。女性で自分より頭良さそうだし、あと夫(ビル・クリントン元大統領)の不倫を許したように見せて、結局、夫婦間でマウンティングをとっているのも、いけ好かない要素なんだと思います。