橘:政治的に保守派を支持するひとたちの性格が反エリート主義や女性嫌悪で共通しているという研究はアメリカにはたくさんあります。日本の親安倍とアメリカのトランプ支持者が似ているのも、心情的に通じるものがあるんじゃないでしょうか。
保守とリベラルで分けると、どの国もドメスティックス(保守派)の方が多いから選挙では勝つんです。ただグローバル世界を見るとこの関係は逆転して、リバタニア(リベラル共和国)が圧倒しています。これが、オバマ大統領の就任式でビヨンセがアメリカ国家を歌ったのに、トランプ大統領の就任式ではすべての歌手が出演を断った理由です。アメリカだけでなく世界じゅうにファンを持つグローバルなスターにとって、わずか2億人のアメリカの保守派の機嫌をとるために70億人の全世界の潜在的なファンを失うリスクを冒す理由はないんです。
日韓の慰安婦問題にしても、日本国内では保守派が圧倒していますが、グローバル世界では国連、アメリカ下院、EUなどで次々と日本政府の謝罪を求める決議をされている。そうなると「韓国の陰謀だ」みたいな話になるんですが、韓国が国連やアメリカ、EUの議会を自由に操れるんなら、いまごろ世界を支配しています。日本政府の大きな失策は、慰安婦問題を日韓のナショナリズムの対立(歴史問題)だと考えて、リバタリアでは女性の人権問題として扱われていることに気づかなかったことですね。「性的な被害を受けた女性は救済されるべきだ」というのがリバタニアの価値観なのに、「慰安婦は売春婦だ」なんていっていたら、「性差別主義者」のレッテルを貼られて排除されるだけです。
中川:ネット上でよく言われる「在日が日本の経済界と政界を牛耳っている」というロジックにもつながりますね。すべてのマスコミに韓国人が入りこんで支配しているという説まであります。
橘:日本だけではありませんが、世の中には、自分の不幸や生きづらさを「どこかに“敵”がいるからだ」と考えるひとが(ものすごく)たくさんいます。これが陰謀論なんですが、そういう善悪二元論でしか世界を理解できないひとも1票を持っているわけですから、落下傘候補で選挙区の支持が安定せず、落選したら「人間以下」になってしまう政治家がポピュリズムの誘惑に負けるのも仕方ないのかなと思います。
中川:そう考えると、先ほどの片山さつき氏の政治戦略がよく理解できますね。杉田水脈氏のLGBT発言なんかは、その流れを踏襲しながら地雷を踏んだということでしょうか。(続く)
◆橘玲(たちばな・あきら):作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『言ってはいけない 残酷すぎる真実』『(日本人)』『80’s』など著書多数。
◆中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):ネットニュース編集者。1973年生まれ。『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』『縁の切り方 絆と孤独を考える』など著書多数。