外出することも少ないからなのか、彼女の肌は、シミ、しわ、ホクロひとつもなく、透明感があり、とても白い。どこの化粧品を普段使っているのだろうかと、気になり聞いてみると「もう二十年くらいお化粧をしてない」という。
「もともと社交ダンスをしているから、試合などで派手な化粧することはありました。でも、2年前に競技会から引退してインストラクターになってからは、ファンデーションも塗らないです。ただ、前に強いシミ取りレーザーで血だらけになった後、真っ黒になっちゃって……大変だったときもありました」
五十代ともなると、ファンデーションなしでは外出できないという女性がほとんどではないだろうか。だが、顔をかなり近くで見せてもらうと、確かに全く化粧をしていない。くっきりした二重の大きな目、密度の濃いまつ毛、ファンデーションすら塗っていない肌も、すべて美容整形だけという。年齢の割にスレンダーな体型も気になったが、ダンスの為に腕とくびれをつくるための脂肪吸引だけはしていると教えてくれた。
美容整形をいったん受けたら、その状態をキープしたり、よりよくするためには「メンテナンス」が欠かせない。そのための情報収集が、よりよい美容整形やプチ整形を受けるためには必須だともいう。
「中国から韓国へ美容整形ツアーで行った人が、めちゃくちゃ下手なところで手術を受けて悲惨なことになったと聞きました。手術をうけるなら、どういう人がやっているのかを調べることが一番大切。研修医とかに任せっきりで下手なところもあります。それは日本でもある。だから私は、医師が院長一人のクリニックで、もちろん執刀医は院長指名。もしくは大手だったら技術指導部長とか、症例数が多い人を指名する。今は美容クリニックは競争が激しくなっているから、宣伝ばかりが派手で技術がイマイチなところもあるんですよ。私も注射やレーザー治療は安いクーポンを使うけど、大がかりな手術はしっかり調べます」
実は、再婚した夫とも離婚することになった。
「昔は優しかったけど、色々あって……。もう、男はコリゴリかな。実は、明日も注射を打ってくるの」
美容整形に踏み出したことに対して、後悔はないのだろうか?
「全くないです。性別を超えたいというか、男女を超えた自信を持ちたかったから。顔を変えたことで自信につながるし、メイクと同じなんじゃないのかな。でも、化粧に時間をかけるのって無駄じゃない? 人によってはメイクに10分、20分どころか1時間もかかるでしょう。でも、土台をいじるとその必要がなくなる。男性は、そういう時間を使ってないじゃない、それがまず不平等だと思う。だから、少しでも肩の荷を下ろせる美容整形は、きっと“良いこと”のはず。
美容整形をして根本から変えれば自分が卑屈にならない。顔のことを気にせず、はっきりモノが言えるようになった。強く生きるうえでのモチベーションがアップしたと感じている。高い意欲を保つために美容整形とメンテナンスは止められない。学費に費やすのと同じような感覚だと思う」
美容整形によって人生を好転させられたと語る彼女だが、最後に「でも……顔を変えなきゃ言えなかったっていうところは、弱かったと思う。フェミニストの人たちは別に変えているわけじゃないし」と少しだけ顔が曇ったような気がしたが、すぐに強く明るい顔に戻っていった。
●はっとり・なおみ/広島県出身。保育士、ツアーコンダクターを経て香港へ。日本語学校で働きながら香港中文大学で広東語を学んだ後、現地の旅行会社に就職。4年間の香港生活を経て帰国。著書に『世界のお弁当: 心をつなぐ味レシピ55』ほか。