「命拾いをしたのだから、これを糧にしてもう一度自分の生活を見直そうと思っている。病室で大船渡の佐々木朗希君のことを見ていたが、ケガを恐れて投げないというのはどうかと思う。ワシは自己管理する中で故障と向き合いながら成績を残してきた。今回のワシもそうだが、ケガをして学ぶことも少なくない。一病息災という言葉もあるだろう。86年間も生きてきたワシがいうんだから間違いないよ」
プロ野球選手が写真週刊誌に女性との夜遊びが掲載され問題になると、「英雄色を好むというが、聖人君子では野球はできん。色も人を生かすことがある」とかばい、「ワシはオンナに腕枕をするときも左腕を絶対に使わなかったし、常に登板日も意識していた。一流選手には夜もローテーションがあるんじゃ」とプロ魂を見せる一方で、下ネタで笑わすことも忘れなかった。
最近は制球難で苦しんでいる阪神の藤浪晋太郎投手のことが気になっていたようで、春季キャンプ中に金田さんの希望でインタビューを申し込んだが、スケジュールの都合で実現しなかった。巨人の原辰徳監督のことを“たっちゃん”と呼び、巨人が何連敗しようと「黙ってペナントが終わるまで見てろ。巨人を叩くんじゃないぞ」と見守った。
オフの恒例だった長嶋茂雄さん、王貞治さんとの『ONK対談』。フグ料理を食べながらの取材だが、ONが現役監督だった時代は店の前に両チームの番記者が集まり過ぎて警官が出動したこともあった。店の中では山盛りの湯引きを食べる金田さん、てっさをお茶漬けのように掻っ込む長嶋さん、ひれ酒がどんどん進む王さんと嗜好がバラバラの3人だが、金田さんの軽妙な司会で同席したマネージャーが固まるような本音が飛び出す。
キャンプ地へ取材に訪れれば、空港に到着した時点でファンに囲まれる。ここでも「長嶋さんです」のギャグで始まり、丁寧にサインや記念写真に応じる。しかし、球場に足を一歩踏み入れると「主役は選手」とサインには応じなかった。裸足でスリッパの選手を目にすると「なんじゃその格好は」と注意し、首にネックレスを付けた選手を見つけると「プレーの邪魔にならんのかな」と呆れていた。プロフェッショナルとしての自覚を誰より持つ金田さんからすれば信じられない光景に映っていた。
現役時代からトレーニング法に加え、食生活にも気を使った金田さんだが、それは晩年になっても徹底していた。キャンプ地の取材でも、朝の食事、出発、昼食、夕食の時刻はもちろん、店や食べるメニューまで決まっていた。「快食、快眠、快便が健康の秘訣」が口癖だった金田さんは、球場に向かうタクシーの中で「クソはたれたか」と必ず聞いてきた。
金田さんの周囲はいつも笑いが絶えなかったが、自身の経験をもとにした鉄板ネタをいくつも持っていた。「サイレンを2回鳴らしたことがある」というのもそのひとつ。「夕張での試合で、プレイボールのサイレンが大きな音で “ウ~”と鳴って、ワシが1番バッターの金田正泰さん(元・阪神)に第1球を投げると頭にガンと当たってしまった。すぐに救急車が“ウ~”とサイレンを鳴らして走ってきた。1イニングにサイレンを2度も鳴らしたのはワシだけじゃ」と爆笑をさらう。