実は昨年も、日本テレビが『行列のできる法律相談所』に市來玲奈アナ、『世界まる見え!テレビ特捜部』に岩田絵里奈アナ、テレビ朝日が『ミュージックステーション』に並木万里菜アナを大抜てき。いずれも人気番組だけに懸念の声もあったものの、一定以上の成功を収めました。長年番組を見続けてきた視聴者が、思っていた以上に新人アナを受け入れてくれた以上、その戦略を続ける価値があるということでしょう。
もう1つ業界内で言われているのは、若手女性アナのスター不足。昨年末に発表された『好きな女性アナウンサーランキング』に20代でランクインしたのは、テレビ朝日の弘中綾香アナとTBSの宇垣美里アナの2人だけ。しかも宇垣アナは今年3月、27歳の若さでTBSを退社してしまうなど、若くして辞めてしまう人も増え、民放各局が20代女性アナのスターを育てることが難しくなっているのです。
3つ目の理由は、20代女性アナのスターを育てるための即戦力採用。アナウンススクールに通った経験だけでなく、アナウンサーやタレントの経験があるなど、撮影現場に慣れた人の採用が増えているのです。
『グッとラック!』の若林有子アナは「セント・フォース関西」に所属してタレント活動をしていましたし、『羽鳥慎一モーニングショー』の斎藤ちはるアナは元乃木坂46のメンバー、『モヤモヤさまぁ~ず』の田中瞳アナは『NEWS ZERO』のお天気キャスター、『THEカラオケ★バトル』の森香澄アナは「セント・フォース」に所属してタレント活動、『東大王』の篠原梨菜アナは『めざましどようび』(フジテレビ系)のお天気キャスターと『Qさま!!』(テレビ朝日系)の出演経験がありました。
今や本気でアナウンサーになりたい人は、アナウンススクールに通うだけでなく、芸能事務所に所属してタレント活動をすることが当然のようになっているのです。また、斎藤さんが所属していた乃木坂46のようなグループアイドルの中には、「芸能活動をする上で女子アナに憧れを抱く」、あるいは「自分の適性を見い出す」という人もいるようです。
◆「新人アナだから」が通用するのは数か月のみ
その他の理由として挙げられるのは、「制作費を抑えたい」というスタッフサイドの事情。「知名度の割にコストを抑えられる女性アナを使いたい」と考えるスタッフは多く、「よほどの費用対効果がない限り、進行役にはフリーアナやタレントを使いたくない」というプロデューサーもいます。
だからスタッフサイドは、多少のリスクや批判はあっても新人アナの大抜てきに踏み切れますし、だからといって撮影現場でタレントのように持ち上げることはありません。あくまで視聴者にとって親しみやすい存在になるようにじっくり育てているのです。
ただ、「新人アナだから」とフレッシュさを感じてもらえるのは数か月だけで、その後は仕事の質やキャラクターの是非が問われ、「物足りない」とみなされてしまったら、新たな新人アナが大抜てきされるかもしれません。
民放各局の女性アナは、「新人のころは局の期待を一身に背負う逸材だったのに、数年後にはアナウンスの職を追われ他部署に異動してしまった」という人もいる厳しい世界。それだけに、今年大抜てきされた新人女性アナたちがどんな活躍を見せ、どう生き残っていくのか、追いかけてみてはいかがでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。