個人の手段として否定することもないだろう。でも、細かい市政の話とか、突っ込まれると困るのでは?
「その辺は市政を批判するか、市政のわかりやすい部分を訴えれば問題ない。保育所や託児所の問題とか、開かれた議会とか、とくに子育てと介護は鉄板だ。要する子どもと老人、国政ともつながる話だろう?」
そんなに簡単な話なのだろうか?
「意外とそんなもんだよ。他の候補者も変わりゃしない」
確かに。地方行政の問題はそのまま国の問題にもつながる話だ。しかし実際はその市町村独特の問題や改善などが中心であり、こんなぼんやりした政策では訴求力が弱そうなものだ。とはいえ、若手であるならその意気やよしと受け取る有権者もいるだろうし、細かな公共事業や福祉政策の話より、わかりやすいと言えばわかりやすいかもしれない。もとより彼にとっては具体的政策は後付けで十分なのかもしれないが。
「日本を変えないと、ブサヨや特亜の連中に乗っ取られるよ。そんなことはキミも知ってるだろ?」
ちなみに「ブサヨ」とは「ブサイク」な「左翼(さよく)」を、「特亜」は「特定アジア(亜細亜)」として中華人民共和国、大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を指すネットスラングだ。2000年代半ばから巨大匿名掲示板2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)で使われ、広まった。
「愛知の展示物の捏造とか、知らない間に地方自治体が食い物にされてるからね。そもそも日本国の議員になるなら、国会議員だろうと地方議会議員だろうと国を愛するのは当然だし、国のために働くのは当然だろう」
私はうなずいてみせた。伝統俳句かつ社会性俳句の詠み手でもある私にとって、変なスラングや表現の自由に対する不理解はいただけないが、彼なりの理屈の中での筋は通っている。漠然とした目的と主義主張、受け売りのネットスラングの口汚さはともかく、今の日本をこのままにしてはいけないという考えには共感できる。これで国会議員を目指すとなるとまだまだ勉強不足だし、それは本人も認めているが、その発心で入党にまで至った行動力と日々の運動は凄いと思う。
話がさらに続きそうなので、ネットスラングはやめたほうがよい、特定個人を傷つけるヘイトもメリットがないと、やんわりと伝えた。
「それはわかってる」
田中さんの真面目さはわかっている。ちょっと影響されただけだろう。
「思ってても出さずに上手くやるのが政治家だぞ」
私の受け売りの偉そうな言葉に、田中さんは笑ってうなずいた。