たとえば彼らの代表曲としても名高い「白日」。楽曲の冒頭から井口の繊細なファルセットに焦点を当て、そこにピアノの音色を重ねることで、透明感をより際立たせる。
そのバラードのテンションで続くかと思いきやヒップホップのビートが重なり、Bメロに入る直前、ターンテーブルのスクラッチ音でファンクやヒップホップといったブラックミュージックのアプローチへとシフト。その場面転換をきっかけにメインボーカルは常田となるも、サビで再び井口の高音が飛び込み、常田の低音がそれを支える──といったふうに、King Gnuの音楽は一定のテンポ感を保ちながらも非常にカラフルな展開を見せていく。
イントロの印象と地続きの世界観を保ちながらも、非常にドラマ性の高いサウンドメイクが計算されているのだ。
さらに「白日」で言えば、井口のボーカルで始まるイントロが劇中に流れた瞬間、ドラマの主人公の心情がふっと動き出すような効果が生まれる。ひとりで始まった音楽に少しずつ音や声が重なる様子は、主人公を取り巻く環境へと景色が映っていく様子ともシンクロする。よりドラマの世界観を立体的に立ち昇らせる楽曲だ。
そしてタイアップの機会に恵まれるもう一つの理由が「スタイリッシュでありながらパッション溢れるロックバンドとしての姿勢」。King Gnuの音楽が単なる洒落たBGMにならないのは、熱を帯びているからだ。
「飛行艇」はその最たる例で、ずっしりと重いビート感にサイケデリックロック的なギターのリフレインのイントロは、大空を飛んでいく雄大さだけでなく、地面を蹴り上げて飛び立っていくような力強さを感じさせる。映像のイメージを落とし込むだけでなく、人間の熱を感じさせる演奏は、より作品や商品の人間ドラマを浮き上がらせることに成功した。