新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、大規模なイベントを政府が自粛要請している状況が続いている。しばらく即売会へ参加するのは難しいだろうが、いまはネットでいくらでも発表できるし、仲間とつながることができる。もちろん後藤さんもすでにTwitterに本垢(個人のプライベートなアカウント)以外の「嵐専」(嵐の話題だけ)のアカウントを持っていて日本中のファンとつながっている。妊活と仕事、しかも求職との両立は難しいだろうし、ましてやコロナ騒動真っ最中、家族の理解があるなら、しばらくは家で専業主婦として結婚生活と嵐を満喫しながら暮らすのもいいだろう。妊活は女性への負担が大きいので思いつめてしまうこともあるだろうが、その時は大丈夫、後藤さんには嵐がついている。
後藤さんから呼び出され、何を言われるのだろうと内心ヒヤヒヤだったが良い報告でホッとした。とはいえ、コロナ騒動による倒産や事業縮小、休止による失業や雇い止め、自宅待機はこれからも続くだろう。私たち団塊ジュニアはまた苦難を強いられることになるのは間違いなさそうだ。とくに非正規は覚悟しなければいけないかもしれない。
まるで一生インパール作戦を強いられているような団塊ジュニアには、そのしんどさから経済的ダメージだけでなく、精神的にも追い込まれる人が少なくない。金銭的に厳しくなれば色々なことに影響が及ぶものではあるが、仕事にこだわり続けた結果、心のバランスも危うくしたという人が多いのではないか。後藤さんは新卒で入った会社が倒産してしまったが、そこで仕事だけにこだわるのではなく、アイドルのファン活動をするという生きる喜びと出会えた。それ以降、非正規で仕事をすることとアイドルの追っかけを両立させることが、彼女の生活バランスを整えていたのだと思う。そして今、その片方が奪われかけ、生きるうえでの新しい平衡を求めて結婚へと踏み出した。
どんなときも求めるべきは絶対的な幸福だ。それは家庭であり、友であり、妻や恋人といった心を通わせる近しい人々との営みであり、自分の絶対的価値観による趣味や学びである。前時代的な感覚で他者と比べたり、相対的なマウンティングや成功主義に固執すると必ずしくじる。私たちはもう中高年だ。さらに厳しくなるであろう非常事態のこの国で、取り返しのつかないしくじりだけは避けなければならないし、それは十分可能である。
●日野百草/ひの・ひゃくそう。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ正会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年9月、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。