試験の突破、システム部への異動―自らの努力で次々とハードルをクリアしていく琴絵さんは、歌手という夢を抱いた時期とは違った充実感を感じていた。新しい時代を形作るIT業界の水が合ったのかもしれない。頑張ったぶんだけ未来が開けていく業界に将来性と手応えを感じた。琴絵さんの運命のレールは25才にして軌道に乗った。そして、運命も変わった。
「システム部に異動して、四宮靖隆さんという男性と出会いました。別の部署にいた頃から『四宮さんはいい人だ』と評判でしたが、私にとっては残業後に『一杯飲んで帰りません?』って誘いやすい相手くらいでした(笑い)。お酒に強くない私が酔って寝てしまっても、彼は起こさないで待っていて、最寄りの駅まで送ってくれる。こんないい人がいるんだ、と思いました。そう、彼こそが私の夫にして、仕事のパートナーです」
東京・品川出身の靖隆さんは、銀座で飲食店を営む両親の元に生まれた生粋のシティーボーイ。柔和な笑顔が印象的で、プロレスや野球などスポーツ観戦をこよなく愛する男性だ。性格は穏やかで「気づくとまわりの人が皆、笑顔になっているような人」だという。
「彼の好意にはうっすらと気づいていたものの、それまでつきあってきた人たちとはあまりにもタイプが違う。『つきあって』と言われましたが、1回目は断った。2回目に告白されたのは私が29才のとき。もう恋愛経験も積んでいたし、これからまた一から数年間つきあうのは違うな~と思い、『結婚してくれるならいいですよ』と条件をつけました。そうしたら彼は『じゃあ、結婚しましょう』と即答。こうして私たちは、交際期間『ゼロ日』で結婚することとなりました」
3月にプロポーズを受けて結婚を決め、5月には琴絵さんの両親に挨拶に行くスピード婚。入籍後に初めて結ばれたというふたりは、6月に新たな命を授かった。靖隆さんが結婚前に購入していた2LDKの新築マンションで、何もかもが順調で楽しい新婚生活…だったはずが、女の人生、山あり谷あり。暗雲が漂い出した。
◆出産を機に専業主婦へ 「産後うつ」との闘い
「30才で長女を出産した後、『産後うつ』になりかけました。当初は子供ができても仕事に復帰する予定だったんですけど、子育てを始めたら、仕事と片手間じゃできないぞと思い、そのまま専業主婦になりました。加えてお姑さんとの同居も始まったばかりで、母として妻として、嫁としても気負ってしまった。義母も夫も仕事があって、家で働いていないのは私だけ。家事は私がしなくてはと思っても、義母が先回りしてやってしまう。ストレスで眠れなくなり、何もないときでも涙が出てくるんです。
復活できたのは、夫が深夜に帰宅してもバトンタッチして育児をサポートしてくれたことと、うつ状態になった私が義母に対して爆発してしまったときに、『私はいいからあなたのやりやすいようにして』と義母が受け入れてくれたこと。それからは義母に実の娘のように素直に甘えられるようになったんです」