さまざまな人生の転機を経験

 琴絵さんの音楽への思いは中学に進学しても続き、吹奏楽部でホルンの練習に励んだ。

 音楽活動の一方、学業面も充実していた。勉強がもともと好きだったこともあって上位の成績だったし、生徒会でも積極的に活動した。ヤンキー風で姐御肌な見た目に反して、誰もが認める優等生だった。そんな琴絵さんが“脱線”したのは、中学3年生で通い始めた学習塾での出会いからだった。

「中学卒業後、その塾の講師とつきあい始めたんです。7才年上の数学の先生でした。年齢的なものもあったのかな、当時は彼の言うことがすべてになってしまい、生活が乱れてしまいました。

 とにかく束縛がきつくて、放課後は即、彼の部屋へと向かっていた。当時は携帯電話がない時代。毎日、部屋に彼から電話があり、出ないと『何をしていたんだ!』と怒鳴られる。彼の帰宅に合わせて、夕飯の用意をしておかなければならず、ある日、ポテトサラダを作ったところ、口に合わなかったようで『責任をとって全部食べろ!』と鍋一杯のまずい料理を1人で食べたこともあった。学園祭に出ることも『浮気防止』のために禁止されていたんです。

 やっと“おかしい”と気がついたのは高校3年生のときでした。『高校生活で一度も学園祭に出ないなんてあんまりだ』と思い、『最後の学園祭には出るからね』と告げると、『好きにしろ』と言われた。それを機会に、距離を置いて、なんとか別れることができました。いまは笑い話にできますが当時はそうもいかず、高校時代は青春ではなく暗黒でしたね」

◆芽生え始めた抑えきれない気持ち

 地元でも有数の進学校を卒業した琴絵さんだが、元彼氏から「女は大学に行かなくていい」と言われ続けていたため、大学進学は視野になく、高校卒業後、すぐに地元企業に就職した。橋梁鉄骨を製造する、地元の老舗企業だった。

「私の仕事は営業事務でした。自宅から愛車のレビン(トヨタ)に乗って会社に通い、朝8時から夕方5時まで規則正しく働く毎日でした。

 仕事にも慣れ、自分でお金を稼げるようになってから思い出したのが『歌いたい』という気持ちです。小さな頃はアイドルになりたかったけど、そうじゃなくても歌いたい。その気持ちが再び芽生えたら、自分の中で抑えることができなくなりました。

 祖母が亡くなってからやめていた民謡のレッスンを再開しようと教室を探し、通っているうち、教室の先輩がたからカラオケ大会への出場をすすめられました。地元の大会から全国規模のものまで、いくつかの大会にチャレンジしているうち、東京の芸能事務所からスカウトされたんです。そこで一念発起し、会社を辞め、演歌歌手を目指して単身上京することにしました。21才の春でした」

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