第3話は、高校中退で上京し、一代で金属加工会社を築き上げたおやじのの話。創立40周年のパーティー目前だが、会社はもう自分の思う通りに動かない。そんな状況に我慢のならない社長が行方不明を偽装してしまう。コメディタッチでテンポよく話は進むのだが、「老いを受け入れることの難しさ」以上のものが伝わってこない。子供たちの父への想いも薄っぺらい。
第4話は、反体制の政治活動に明け暮れて家庭を顧みなかった元出版社経営者の父と、監査法人を辞めて有機農業ビジネスを営みながら家庭の幸せ最優先で生きる息子。わだかまりを抱えてきた父子が、秩父札所参りの道中で心に秘めてきた思いを初めてぶつけ合い……という要約だけで、そんな観念的な親子関係なんかどこにある、と首を傾げる人が大半だろう。
とまあ、いずれも「ヘンなおやじ」や「困ったおやじ」は登場してきても、心に沁みるいい話にはなっていなかった。あくまでホームドラマだから、見る者の心を温かくさせたり、涙腺をゆるませたりしようと狙っているはずだが、大脚本家たちが手がけてもそういう話が展開しない。なぜか。
それはたぶん、現代において、おやじが絵になる家族像を描くこと自体が困難なのだ。親子や夫婦間のディスコミュニケーションや、逆に親子が過剰に依存し合っている状態はすぐにイメージできる。極端に言えば、『家族狩り』が描き出しているようなホラーな家族のほうが現実世界でもリアリティがある。でも、お手本の一つになるような、こういう関係性を目指したいよね、とみんなが頷けるような家族はなかなかどうして見当たらない。ホームドラマの成立が、とても難しい時代なのだ。
ただ、難しいからこそ、いいホームドラマを見てみたい。この記事のアップ予定日の前日に、『おやじの背中』の第5話が放送される。脚本は『野ブタ。をプロデュース』『Q10』などで知られる木皿泉だ(主演は遠藤憲一&堀北真希)。4話目までの脚本担当は70年代~90年代が全盛期だったビッグネームたちだが、木皿泉はゼロ年代に芽が出た作家。「そこに光を当てたか!」という家族観を提示してきそうな気もするので期待したい。
それと8月24日の第7話は、いよいよ山田太一の作品が放送予定だ(主演は、渡辺謙&東出昌大)。もう80歳の大ベテランだが、今年の2月にテレビ朝日で放送された2時間超のドラマ『時はたちどまらない』も良かった。東日本大震災に翻弄された2組の家族をていねいに描いた佳作だった。短編は久しぶりだから、大ハズレの危険性もあるが、山田太一ファンの一人として私はこの放送を心待ちにしている。