それぞれの番組内容は、大物タレントの「魅力を再発掘」「素顔や本音を引き出す」「イジリ倒す」などさまざまですが、局の垣根を超えて“大物タレントブーム”が広がっている理由は、中高年層とファミリー層の一石二鳥狙い。大物タレントは、テレビ視聴者の中心である中高年にとって親しみのある存在であり、ファミリー層の両親も子ども時代に見て育ったなじみのある存在です。
さらに、番組を見ていると、「次代の視聴者となる子どもをつかもう」という意図も見えます。たとえば『1周回って知らない話』では、大物タレントのほかに、中堅タレントを“一周回った芸能人代表”(ファミリー層の両親を想定)、若者タレントを“今どきの芸能人代表”(ファミリー層の子どもを想定)を配置。若者タレントの「へえ~」「信じられない」、中堅タレントの「そうなんだよ」「やっぱりスゴイな」などの声を拾うことで、お茶の間の親子とシンクロさせています。
大物タレント出演が増えているもう1つの理由は、芸能人の復権。近年、ブログやSNSの普及、「会いに行けるアイドル」の登場などでタレントが身近になった反面、特別な存在という意識はなくなりました。また、デビューのハードルが下がり、バラエティー番組の大量キャスティングが定番化して、芸の乏しいタレントが増えたこともあり、業界内では「もう一度タレントの凄さを知ってもらおう」「本当に芸のある大物タレントを使おう」というムードが生まれているのです。
折しも世間では、2014年冬のソチ五輪以降、実績のあるベテランアスリートを“レジェンド”として崇める傾向が生まれ、それが他のジャンルにも波及しています。芸能界におけるレジェンドと言えば大物タレント。テレビにおける表現の幅が狭くなる中、大物タレントを起用することで、「偉大なタレントの功績を称える」「その魅力を再発掘する」という誰も傷つけない番組コンセプトが可能になるのです。
60年を超えるテレビの歴史上には、まだまだ再発掘してほしい大物タレントがいるだけに、このブームはしばらく続くでしょう。以前では想像もつかなかった新境地の開拓や、若者タレントとの融合なども含めて、新たな展開にも期待しています。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。