契約書を読んでいたら、本来は交渉する立場にあるので、こういった仕事はやりたくないとか、報酬を上げてほしいとか、内容の交渉ができるはずなんですけどね。ただそこに知識もなければ、慣習もない」(佐藤弁護士)
芸能人と事務所がその契約をめぐって対立し、裁判となったケースもある。
例えば2010年11月、小倉優子(33才)は当時所属していた事務所に年内いっぱいでの契約解除を突きつけた。これを不服とした事務所側が、小倉に1億円の損害賠償を求める裁判を起こしたものの、小倉の完全勝利となった。
「その判決文には《本件契約でのタレントの地位は、労働者であるため、契約に縛られず自由に辞めることができる》といった内容が書かれていて、つまり小倉さんのケースでは、タレントは会社員と同様の労働者で、会社を辞めるのも移籍も自由という判決だったようです」(佐藤弁護士)
前述のとおり、厚労省の指針でも芸能人は、働き方が労働者と同様と判断される場合がある、との記述があるが、これはどういうケースなのか? 厚生労働省労働基準局監督課はこんな見解を示した。
「どういう場合に芸能人を労働者と判定するかは個別具体的になります。つまり、これだという基準はなく、複合的な要因で判断することになりますが、その最たるものは使用従属関係があるかどうか。会社員は仕事を断る自由がないですよね。ですから『この仕事を受けません』という拒否の自由があれば労働者とはなかなか認められにくい。逆に業務命令だ、給料を払っているんだから、と言われると仕事の自由度が低くなりますから、労働者性は強くなります」
この考えでいくと、名前のある芸能人は、たとえ仕事を断っても次の仕事がくるから、断れる。つまり、使用従属関係にはない。
一方、名前のない駆け出しの芸能人はどうか。清水富美加は、自著『全部、言っちゃうね。』の中で、これほど人気が出る前、水着になる仕事が嫌だったものの、一度干された過去があったため、怖くてとても言い出せなかった、と綴っている。
であるならば、干されるという表現はともかく、一度断れば次はない、と考えて、嫌な仕事を引き受けざるを得ない、売れない芸能人のほとんどは労働者と見なされることになる。
清水の一件を受けて、2月に幸福の科学と関係が深いと見られている人物らが『芸能人の労働環境を糺す会』を発足させ、東京労働局に、芸能プロダクションは、労働基準法の定める労働条件を守るべき義務があることなどを嘆願書として提出した。これが徹底されるようになると、芸能人は下積みをすることはなく、例えば《初任給20万円。週休2日、年齢に応じて昇給あり。夏と冬はボーナスも》などというある一定の労働条件で働く時代がやってくる。
※女性セブン2017年3月30日・4月6日号