そこに一定の説得力があるのは、「戦時作戦統制権」の問題があるからだ。韓国は朝鮮半島有事が起きた際、作戦を指揮する権限を米軍に委ねることになっている。この戦時作戦統制権を韓国に取り戻そうとしたのが反米で鳴らした盧武鉉大統領(当時)で、2007年に「5年後に委譲」を決定した。ところが、その後の李明博、朴槿恵の両大統領は、米国との関係性や安全保障上の観点から委譲を見直し、現在は事実上の無期限延期となっている。
文氏はこの措置に関し、国会で「軍事主権を放棄したもの」「恥ずかしくないのか」と政府を追及してきた。というのも文氏は、統制権の委譲を決めた盧武鉉政権の大統領民政主席秘書官だったのだ。
2人はもともと人権派弁護士の同志として「盧武鉉・文在寅合同法律事務所」を開設していた。盧武鉉氏が政界に進出してからは最側近として活躍し、盧武鉉氏が大統領辞任後に政治資金不正で自殺した際は葬儀委員も務めた。盟友・盧武鉉氏の功績である統制権の委譲は、文氏にとって絶対に譲れない“公約”なのだ。
だが、そこに踏み込むのは、クーデターへの導火線に自ら火をつけることに等しい。
「韓国軍にとって、戦時作戦統制権は米軍という大きな後ろ盾を得るための生命線とも言える存在で、だからこそ盧武鉉氏の退陣以降は議論が封印されてきた。軍部が文氏を親北として毛嫌いしているなかで、いきなり統制権委譲を打ち出せば軍部の反発は必至です」(前出・防衛シンクタンク関係者)
※週刊ポスト2017年4月14日号