戦時中、多くの部隊が全滅するほど多くの戦死者・病死者を出したビルマのインパール作戦の生き残りの宗男が、なぜ、敵方だったイギリスのビートルズの大ファンでいるのか。なぜ、彼が常に「笑って生きる」と決めたのか。拾った命を存分に生きると決めた宗男が武道館の外から「ありがとう、ビートルズ!! 俺も笑って生きてっとう!」と叫ぶ姿には、胸打たれた。
これまで、昭和の激動、戦争を描く朝ドラは、ヒロイン自身が、父や夫、恋人、息子などを戦地に送るという形がほとんどだった。しかし、『ひよっこ』は、戦争を知らないみね子が、大好きな明るい変人宗男を通して、その悲惨さや痛みを察する。戦後生まれの多くの視聴者は、同じ立場のみね子に共感したはずである。
そのきっかけがビートルズだったと描けたのも脚本の力。脚本の岡田惠和氏は音楽評論家・作詞家でもあり、NHK FM『今宵ロックバーで~ドラマな人々の音楽談義~』という番組を持つほどの音楽通として知られる。ドラマの中でも「ビートルズはいまいちわかんねえ」という近所の三宅裕司、佐々木蔵之介、中華料理屋の光石研、すずふり亭のやついいちろうが4人で当時人気のムード歌謡『ラブユー東京』を歌うシーンがあった。作曲家宮川彬良氏によるちょっととぼけた音楽もどこかクレージーキャッツ時代を思わせる。常に音楽を意識したドラマだとわかる。
岡田惠和氏によるヒット朝ドラ『ちゅらさん』もヒロイン(国仲涼子)の地元沖縄イントネーションと下宿先の変わり者たちとの笑える交流が楽しかった。『ちゅらさん』でもいい味を出していた菅野美穂が『ひよっこ』でも有名女優役で重要な役割を果たすらしい。岡田ワールド、これから夏に弾けそうである。