「それまでのヤクザ映画とは大きな違いが2つあった。ひとつは添え物的な扱いをされていた、女性たちの存在がクローズアップされたこと。主人公の鬼政(仲代達矢)は正妻と妾を同居させていて、彼女たちの『女の戦い』がヤクザの抗争以上にドラマチックに描かれている。
もうひとつは、家族や父子の情に物語の主軸があること。鬼政の養女・松恵(夏目)の目を通して話が描かれて、彼女と鬼政の相克と和解が観る者の感動を呼ぶ。五社英雄監督が、それまで得意としてきたバイオレンス演出を封印し、情感を掘り下げたことも加わり、アウトローものが苦手の人も含めて幅広く支持される、普遍的な人間ドラマになりました」
この『鬼龍院花子の生涯』と『極道の妻たち』双方の脚本を手掛けたのが、前出の高田氏である。
「女性が窮地に陥った“惚れた男”のために立ち上がり、戦う映画が作りたかったんです。極妻は家田荘子さんの同名ルポが原作ですが、亭主が浮気するとか、家に金を入れないといった、女が苦労する話。家田さんには申し訳ないけど『題名だけいただきます』という気持ちだった(笑い)。脚本をプロデューサーの日下部さんに見せたら、『自分が考えていたのとは違うけど、面白いからこれで行こう!』と乗ってきた」(高田氏)
岩下志麻主演の1作目は空前の大ヒット。以降、シリーズは10作を数えた。
現代のヤクザ映画を代表するのは、北野武作品だろう。『アウトレイジ』シリーズ3作品がすべてベスト20入りしている。
「なによりも役者たちの顔面バトルがすごい。個性派俳優たちがドアップで怒りを爆発させる様は圧巻だった」(51歳会社員)
映画評論家の秋本鉄次氏が語る。
「北野作品には、主人公が“どこでケジメをつけるか”を模索しながら、死に場所を求めて彷徨っている。それが観る者の心を揺り動かすんです」
※週刊ポスト2019年12月13日号