青葉真司容疑者宅に家宅捜索に入る京都府警の捜査員。青葉の自宅は普通のアパートの一室だった(時事通信フォト)
職選びに関しても青葉は見事なほどのしくじりぶり、団塊ジュニアの負け組における典型的な転落の地雷をこれでもかと踏み続けている。
いつしか青葉は一発逆転を夢見て小説を書き始める。青葉はワナビであった。
ワナビとは、英語のスラングwanna be、want to be(~になりたい)をあえてカタカナ表記した言葉で、「何者かになりたい」人のこと、とくに作家志望者のことを指すネットスラングのひとつだ。ここでいう小説とは純文学や一般小説ではなく、いわゆるライトノベルのたぐいである。
青葉は2012年にコンビニ強盗で逮捕された後に収監された刑務所内でも書き続け、出所後に京アニの賞に応募、それがパクられたと思い込み、今回の事件を引き起こす。青葉の夢は「大金持ち」であった。コミックほどではないがラノベにも一獲千金の夢がある。もっと下の世代なら動画投稿者など他のネットを中心とした手っ取り早い一発逆転を考えそうなものだが、あくまで作家として王道の受賞デビューを目指した。この辺、昭和の残滓である団塊ジュニアならではの旧来価値観から抜け出せない愚直さが青葉にはある。というか基本的に不器用だ。
『京アニを燃やした男』でも当時の同級生から話を聞いているが、青葉はジャンプを読み、ファミコンに興じ、ガンプラを作る、1980年代の典型的な団塊ジュニアのどこにでもいる少年であった。この点で私たちと何ら変わることはない。背が高くスポーツも得意だった。貧しかったといっても社会保障的な貧困と定義するほどでもない。しかしバブル後の社会に高卒非正規で放り出され、長きにわたる氷河期によってしくじり続け、今回の事件に至った。
この青葉の帰結は極端だが、私たちもバブル崩壊後に放り出され(高卒の団塊ジュニア1期は違うが)、今や大なり小なり差が出来た。「サザエさん」のマスオや「クレヨンしんちゃん」のひろしはギャグ漫画の立ち位置として可哀相なサラリーマンのお父さんだったが、いつしか「勝ち組」と呼ばれるようになった。団塊ジュニア・氷河期世代には当たり前の正規職も、当たり前の結婚も、当たり前の我が子もいない層がひしめいている。下手をすると肉親とも疎遠で孤独の中かもしれない。