薬師丸ひろ子の透明感は健在

 夢も諦め結婚し平凡に生きてきたが、果たせなかった夢は娘たちに託そう。そんなおおらかさ、肯定感、慈愛に満ちた母を演じる薬師丸さんが、太陽のように温かくて癒やされます。ふっくらとした光子の横顔はまるで観音菩薩かミューズか。

 薬師丸さんといえば、やはり朝ドラ『あまちゃん』(2013年)の鈴鹿ひろ美役が思い出されるでしょう。ドラマの中で「潮騒のメモリー」を歌い上げたその瞬間、日本中が「神回」と感動した。のびやかで透明で天へと響くような歌声。ドラマの舞台は東北・北三陸鉄道等で東日本大震災を描く側面もあり、暗くて辛い出来事が思い出されたりしたけれど、薬師丸さんの声を思い出すたびに過酷な現実が浄化されていくようにも感じました。

 そして今。コロナ禍で暗く澱んだこの世の中を明るく照らすミューズ。まさしく私たちに「エール」を送ってくれている。

 朝ドラ『エール』には、来月もまた注目の場面が出てくるはずです。5月1日から登場予定の故・志村けんさんが、「赤とんぼ」「待ちぼうけ」などで知られる大御所作曲家・山田耕筰をモデルとした小山田耕三を演じるという。日々流れるドラマは人々と寄り添い、時代と併走しながら走っていく。ドラマを見ながら「今」というこの時代を噛みしめることになりそうです。

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