それは愛情表現か、いきすぎた教育か──家族のみが判断できることだろうと、周囲は目をつぶっていたようだ。前出の江をよく知る別の知人がため息交じりに語る。
「彼の子供たちに対する本当の態度を知っている人は少なくなかったはず。長男が福原さんと日本に行ってよかったと胸をなでおろす人もいるぐらい。家族のプライベートなことは今後の裁判にもかかわるから、福原さんは元夫の“真の姿”を公にすることは難しいのかもしれません。今後もダンマリを決め込むのでしょう。ただ、彼女の強硬な態度にはそれなりの証拠や理由があるのだと思います」
今回、家裁が「保全命令」を出したことも注目される。岡野法律事務所九段下オフィスの弁護士の伊倉秀知さんが解説する。
「保全命令とは、緊急性が高い場合に裁判が終了するまでの間、権利が実現できるようにするために裁判所が出す仮処分命令のこと。今回のケースでは福原さんに対して、『長男を引き渡すこと』という保全命令が出ました。ただしこれは仮のもので、最終的な判断は裁判で下されます」
家裁の決定の背後にあるのが、1980年に採択された「ハーグ条約」だ。正式名称を「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」といい、国境を越えて子供を不法に連れ去る、あるいは留め置くことの悪影響から子供を守ることを目的とする条約である。
「昨今は『子供の連れ去り』が国際的に大きなテーマになっています。台湾はハーグ条約に未加盟ですが、日本は加盟しているので、家裁の判断が厳しくなった面があると思います。国をまたいだ連れ去り事案はケースバイケースですが、現在は家裁がハーグ条約を“錦の御旗”として、子供の引き渡しを認めやすい傾向にあります。今回、家裁が江さんの訴えをもとに保全命令を出したのは、こうした国際的な流れも一因でしょう」(伊倉さん)
他方で子供の引き渡しを求める現在の傾向には、落とし穴があるという。
「ハーグ条約は国境を越えて子供を連れ去った側に引き渡しを求めるもので、“連れ去られた側”が子供の養育に適しているかどうかを判断するものではありません。つまり、子供にとってどちらの親に養育されるのがいいかは考慮されず、いわば親の都合だけで、形式的に連れ去られた側に子供を渡すための取り決めとも言えます」(伊倉さん)
福原が不安を抱いているのはまさにこの点なのではないかと別の江の知人が語る。
「福原さんはこのまま長男を江くんに渡して、また虐げられる生活に戻ることを心から恐れているのではないでしょうか。だから福原さんはどれだけ叩かれても、長男を江くんの元に戻すわけにはいかないのでしょう」
江に取材すべく連絡をいれたが、期日までに回答は得られなかった。一方、福原も「何もお答えすることはできません」との回答だった。子供を守るために福原の口から真実が語られる日は来るのか。
※女性セブン2023年8月31日号