今一人の熱狂的な読者が、真嶋の元同級生〈岸川〉だ。6年働いた硝子工場を解雇され、中3までを過ごした千歳烏山に舞い戻った彼は、柄の悪い男にベンツを運転させる真嶋と偶然再会する。
喪服姿の真嶋はやはり同級生だった〈増田和幸〉の弟〈建治〉の四十九日の帰りだと言い、別れ際、六本木で経営する店のパーティにお前も来いと岸川を誘った。かつてギャングで鳴らした岸川は〈中学のとき、お前と呼ぶのは岸川のほうで、真嶋は岸川君と呼ばなければならなかった〉〈俺のほうが上だ〉と怒り心頭だが、結局は文句も言えず、彼もまた真嶋を巡る黒い噂の虜となっていくのである。
「彼としては自分より格下だった真嶋がなぜ闇社会に君臨できたのか、当然知りたいだろうし、今が不遇だけに20年前の力関係に固執する気持ちもわかる。僕も同窓会へ行くとつい当時の関係に引き戻される感じがあるし、そうやって上下、左右を見ながら常に自分の位置を確認したがる傾向は、誰にでもある気がします」
実は拉致事件の被害者・平田は先々月に起きた増田建治殺害事件の容疑者で、その手下も実家を襲撃され、自殺していた。これを報復と見た捜査本部は増田の身辺を洗い直すが、職業は金融関係という以外、増田の女も正体は知らないという。
手掛かりは以前マジマという人物から電話があったという証言だけだが、それがあの真嶋なら捜査は一気に進む。高橋らはIT企業や芸能会社を多数傘下に置き、何十億もの資金を動かすという怪物の実像を暴くべく、足を棒にする他なかった。