佐藤:なるほど。「譲位」を1年後に控えたいま、人間天皇とは、象徴天皇とは何かを改めて問い直す必要がありますね。
片山:そこは重要です。「人間宣言」のあとにできた戦後憲法では、人間天皇という表現はなく、象徴天皇ということになります。象徴天皇は国民の総意に基づいて存在すると憲法で定められている。ではいかに総意が形成されるのかといえば、「人間宣言」にその説明を求めるしかない。
だから「人間宣言」をした昭和天皇はサラリーマン風の背広姿で、時には吹きさらしに立ち、髪が乱れるのもかまわず、全国を行脚して国民に手を振り続けた。一般国民の側に寄っていった。そうやって等身大の人間天皇を国民の前にさらして、信頼関係を結ぼうとされました。
佐藤:今上天皇は昭和天皇のそうした側面を色濃く受け継ぎ、人間天皇像を突き詰めてきた。そして、そんな戦後民主主義を体現したフラットな天皇のイメージを広めていく上で大きな役割を果たしたのが小林よしのりの『天皇論』(注4)でした。
【注4/『天皇論』は2009年、小学館より発売。皇室の入門書にして、雅子妃や皇位継承をめぐる現代皇室の問題点にも鋭く切り込んでいる。】
●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究家。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『近代天皇論』(島薗進氏との共著)。
●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。共著に『新・リーダー論』『あぶない一神教』など。SAPIO連載5年分の論考をまとめた『世界観』(小学館新書)が発売中。
※SAPIO 2018年5・6月号