地球儀を俯瞰する外交を標榜してきた安倍晋三は、第2次政権の発足当初、外務省と手を取り合って外遊を重ねてきた。それがすっかり様変わりし、今では双方の間に大きな溝ができている。
◆主導権は今井秘書官
元来、日本政府では外務省が対外交渉を担い、各国に置かれた大使館や公使館などの在外公館が窓口機能を果たしてきた。首相や外務大臣と相手国首脳との会談や折衝を段取り、事務方同士で具体的な実務を進めるパターンだ。
第2次安倍政権でも初めはそれを踏襲してきたといえる。谷内正太郎や河相周夫、齋木昭隆、杉山晋輔といった外務事務次官経験者が中心になって外交を支えてきた。とりわけ谷内は、第1次安倍政権後の麻生太郎政権下で「自由と繁栄の弧」という中国包囲網政策を打ち出し、第2次政権の発足した2012年12月以降、新設された国家安全保障局長の任に就いた。
だが、そうした良好な関係も少しずつ変化してきた。外務省の関係者が指摘する。
「たとえば2013年6月に事務次官に就任した齋木さんは、安倍総理の財界応援団である『四季の会』を主催するJR東海の葛西敬之名誉会長とも親しく、品川の『うめもと』という割烹で定期的に食事をする間柄でもありました。それで安倍総理も信頼してきたのですが、後任の杉山さんの次官就任をめぐり、総理と距離ができていった。安倍総理が自らの外遊に付き合ってきた杉山さんの早期次官就任を要望していたのに対し、齋木さんは2016年6月まで3年も粘った。そのあたりから確執が囁かれました」