◆日本海沿いの温泉宿を転々と
〈かなり大胆に思える“かくれんぼ”生活だが、そこには許氏なりのルールがあった。単独行動は厳禁。風呂好きの許氏は、街中の銭湯に行く際も、必ず一工作した〉
まず柄物の派手な服装の人間を2~3人“先乗り”させるんです。で、客の目が彼らに集中される隙に、ひっそり入店する。浴室でもその連中から離れて浸かる。筋モノの中には銭湯好きが多くて、いつ顔見知りに会うかわからない。必ず数人を先に行かせて、中の様子を確認させました。
都心のある大型スーパー銭湯に行った際、知人の政界関係者に遭ってしまったこともあります。パッと目が合い、向こうも固まっている。「議員宿舎の一室を用意しましょうか」なんて言ってくるので、やんわりと断わりました。
当時、都内の学芸大学駅近くの銭湯によく通っていたのですが、帰り際に警官から職質を受けたこともあります。近くで何か事件があったようですが、聞かれたことにサラリと答えていたら、「ご苦労さまです」の一言で終わりました。警官も、頭に湯上がりのタオルを巻いたおっちゃんがあの許永中だとは、想像もしていなかったのでしょう。
〈人目を避けるように日本海沿いの温泉を転々としていた時は、海の向こうの“祖国”に思いを馳せて物思いにふけることもあった〉
夜の日本海は、とにかく暗く、深い。吸い込まれそうになったことも一度や二度じゃありません。そのたびに坂本冬美さんの『風に立つ』を聞いて、己を鼓舞したものです。
◆今日も日韓の要人が訪ねてくる