「ヤクザが刺されたり、撃たれたら、体から血が流れるだけやない。組織の看板にも穴が開いて流血する。体の傷なら針で縫い、薬を塗り、包帯を巻いて安静にしとけばええけど、看板は治療できない。ちょろちょろ流れ続ける血を止める方法はひとつ、相手をいわすことしかない」
刺された直後、実話誌の見出しは一気にヒートアップした。
「山健組 潜伏部隊 血の報復Xデー」(『週刊実話』5月23日号)
山健組は是が非でも報復せねばならなかったし、このタイミングは「井上組長への忠誠を示す誕生日プレゼントか」という憶測を呼んだ。
◆任侠による拉致事件も
では弘道会を襲ったヒットマンは山健組の人間なのか? 事件から1週間が過ぎても実行犯は捕まっておらず、警察の捜査は全方位に向けて行なわれている。
8月20日には長野県飯田市で、弘道会と、神戸山口組から分裂した任侠山口組が一触即発となっていた。弘道会野内組系の組長が、任侠山口組の組員らに拉致、暴行されたのだ。その後、解放されたとはいえ、大けがをして放り出されたのだから、弘道会としては見過ごせない。そのため、神戸の発砲事件が起きた直後、任侠山口組系の事務所も警戒の対象にされていた。
與若頭を襲撃したのも、飯田の拉致事件も、六代目山口組側の当事者は弘道会野内組系という有名どころである。三代目弘道会で統括委員長を務める野内正博組長は、分裂抗争における弘道会側のキーマンと評され、他団体の幹部らからも「弘道会幹部だけに居丈高かと思っていたら、存外、腰が低く話が分かる」と評判がいい。だがそうなると正反対の悪評も付きまとう。