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「殺しの柳川」が担った政界裏仕事

 自民党には指三本スキャンダルというトラウマがある。1989年4月、リクルート事件の余波を受け、竹下登首相は辞意を表明した。後任は竹下内閣で外務大臣を務めていた中曽根派の宇野宗佑だった。知名度に乏しい宇野の強みはクリーンなイメージ。「政治とカネ」で揺れる自民党は、宇野に7月に控えた参院選を戦う上での党刷新を期待した。

 しかし就任するや、宇野は神楽坂の芸妓との女性スキャンダルを報じられた。「指三本」(30万円)で愛人契約を結んだという芸妓本人の告発は政権を直撃し、参院選も歴史的惨敗。69日間の短命政権となってしまう。荒井が舞台裏を明かしてくれた。

「宇野さんが辞める原因となった相手は神楽坂の芸妓ですが、別に祇園に女がいたんです。こっちが本命でした。宇野さんが総理になった際、これを隠さなければならない、ということになり、それを柳川さんに相談しました。柳川さんは『わかった』とだけ言って、京都の会津小鉄会(京都に本部を置く指定暴力団)の高山登久太郎さんと相談して女をしばらく韓国に匿ってくれた。結局、神楽坂の件が報じられ、この工作は意味がなくなってしまうのですが。ただ、柳川さんはビタ一文要求せず、素晴らしい手際の良さでした」

 こうした自らに求められた役割を自覚せざるを得なかったからだろうか。晩年の柳川は、再びアウトローへの道を模索する。Kによれば、柳川組の再興を考えていたという。

◆「ワシの養子にならんか」

 かつて柳川組を破門したはずの山口組の最高幹部からも了承を取りつけた。だが、年老いた柳川に代わって組の運営を任せられる人物はいない。柳川組の若い衆はいずれも自らの組を持ち、一国一城の主となっていたからだ。結局、断念するしかなかった。

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