ここからは意外な3人である。一人目は、寺尾聡演じる「東教授」の娘役、飯豊まりえである。「唐沢版」では矢田亜希子が演じていた“お嬢さま”だ。スタイルの良さや、芸人たちが認めるバラエティー力、『にじいろジーン』(関西テレビ・フジテレビ系)でのMC力など、モデルやタレントとして評価させてもらっていたものだ。加えて、『MARS~ただ、君を愛してる~』や『トラさん~僕が猫になったワケ~』など、アイドル映画の体裁をとる作品への出演が強い印象が筆者にはあった。
だが、飯豊は、「お嬢さま」ならではの芯の強さや行動力を静かに強く演じ切った。この作品は彼女にとって、間違いなく代表作になるに違いない
続いては向井康二だ。「誰?」と思う方が大半だと思うが、彼は関西ジャニーズJr.の人気メンバーとして活躍し、現在は、人気ユニット「Snow Man」に加入。MC力に秀で、顔面偏差値もすこぶる高いイケメン。「唐沢版」で「中村雅俊の息子が演じていた役」と聞けばピンとくる方がいらっしゃると思う。
向井の登場は第3夜から。以降はとても重要な役どころで、父親役は柳葉敏郎、母親役は岸本加世子。大阪が舞台ゆえ、関西弁がスムーズに出てくる向井はそもそも適任なのだが、知名度という点では、他の関西ジャニーズJr.たちも候補だったに違いない。
でも向井康二が選ばれた。岡田と同じジャニーズ事務所(ちなみに岡田も関西人)であることから「バーター?」と思われてしまいがちだが、3夜、4夜、5夜と見ていく内に、向井の演技がどんどん迫力を増してくることが見て取れた。さぞ刺激的な現場だったことだろう。
AIの話もフツーに出てくる令和版『白い巨塔』にあって、若々しく軽やかな向井の存在は、とても意味があると私には思えた。舞台経験は多いので、芝居が大きくなりがちかと思ったが、すぐさま軌道修正してきた。彼もまた「代表作」といえる映像作品に巡り合えたというワケ。強運の持ち主だと思った。
◇「新境地」を開いた浅田美代子
そして浅田美代子である。6月7日公開の主演映画『エリカ38』で、60代にして初めて本格的なセクシーシーンに挑戦したり、「つなぎ融資の女王」をモチーフにした作品に彼女が体当たりで挑戦した“きっかけ”をつくったのは、親友であり、姉であり、母のような存在だった樹木希林さんだ。
希林さんは生前、「美代ちゅわん(←希林さんは、このように呼んでいた)は、(プライベートで)けっこう苦労してきてるのに、それが演技に出ないのよね」と言っていらしたそうだ。それを「いいこと」と捉えてくれていたという希林さんだが、『白い巨塔』の浅田を見たら、なんとおっしゃっただろうか。
「くれない会」の会長をつとめ、教授夫人としてのプライドと傲慢さを持ち合わせた浅田の演技は、『エリカ38』に勝るとも劣らない「新境地」だと私には思えた。
「このままでは、バラエティータレントで終わってしまう」という悩みを希林さんに吐露したことがきっかけとなってスピーディーに公開まで進んでいった『エリカ38』と『白い巨塔』により、この先、彼女には、『釣りバカ日誌』の「みち子さん」とは大きく異なる新たな作品からのオファーが届きそうな気がする。
彼らだけではなく、あらゆるシーンで「そう来たか」「いやはや、お見事」と唸らされた『白い巨塔』のキャスティング。主演の岡田准一が覚悟していたように、全キャストが「往年の作品と比較されても負けないように」役を全うした結果であろう。5夜連続の『白い巨塔』、改めて、1夜たりとも見逃したくない作品だ。